死に近かった四日間

三日目(3)

空が傾いて、オレンジだった空がすっかり夜の色にすり替わったころ、やっと彼の車が泊まった。彼はポケットから財布をだして座席に置き、身軽になって運転席から降りた。彼が出ていったのにひとり残るというのもおかしいので、僕も車から降りる。月明かりだけ...
死に近かった四日間

三日目(2)

喫茶店にはいると、カランとドアについたベルが鳴る。耳に心地のいい音だった。窓際の席に適当に座れば、ソファはふわりと腰を受け止めた。雰囲気のいい喫茶店である。近くの柱には禁煙の文字が貼り付けられていた。そういえば、と、今朝タバコを吸っていた隣...
死に近かった四日間

三日目(1)

少しの煙たさが鼻を掠めて薄目を開ける。ホテルの室内には、うっすらと、白い煙がただよっている。その煙を視線だけで追っていけば、その発生源は隣人が吸っているタバコからだとわかった。ベッドの隣、サイドテーブルには灰皿が置いてある。そういえば、フロ...
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死に近かった四日間

二日目(3)

ご飯を食べ終わったあと、僕は隣人とおばあさんが世間話をするのをなんとなく聞いていた。うまく相槌でもうてればいいのだけれど、それは知らないニュースの話だったり、隣人が前に住んでいたというアパートの人の話だったりしたので、ただ、聞いていた。しば...
死に近かった四日間

二日目(2)

いつまでたっても雨が降り止む様子はない。それどころか、子猫を拾ったその時より雨の降りが強くなってさえいるような気がする。隣人は首を傾けながら僕に問い掛けた。「こいつ、どうするつもり?」「……どうしましょう」 まず雨が降りやまないことが問題だ...
死に近かった四日間

二日目(1)

目を覚ましてまず耳に入ってきたのは静かな雨音だった。無理な体制で寝たせいか体の節々に妙なだるさがある。雨が車の屋根を叩く音が強くなるのを感じると、僕はやっと重たい瞼をもちあげて窓の外を眺めた。窓を伝う雨は絶え間なく、じっと眺めていればそのう...
死に近かった四日間

一日目(4)

それから、もう見るものは見尽くしたというほどに水族館内を見て回った。もうそろそろ足が限界を訴えだしそう、というところで、やっと帰る方へと向かう。出口の前のお土産コーナーで、隣人が足を止めた。「これ買っていく」「えっ? それをですか?」 彼が...
死に近かった四日間

一日目(3)

「そろそろお昼だし何か食べようか」「は、はい。フードコートがありましたよね、確か」「じゃあそこでお昼にしよう」 イルカショーの会場からフードコートまではそれほど歩く事なく、ショーがちょうど終わった事とお昼時という時間帯のせいか、数人客が並ん...
死に近かった四日間

一日目(2)

車が止まったのは、だだ広い駐車場だった。彼がエンジンを切ったので、ここが目的地なのだと知る。平日だからか僕達の他に止まっている車はぽつりぽつりとまばらで、元々広い駐車場が馬鹿みたいに広く感じられる。魚や泡が至るところに描かれた建物のデザイン...
死に近かった四日間

一日目(1)

仄暗い、死を匂わす表現があります。作中のどの行為も推奨しません。  頭を焦がすような日照りの中、僕はただひたすらに後悔をしながら歩いていた。ニュースによれば気温は三十度を優に超えて、制服の半袖から抜き出た地肌は焼けるように暑い。熱に浮かされ...
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