死に近かった四日間 エピローグ

死に近かった四日間

 隣人と過ごした放浪の四日間。あの出来事があってから僕は、朝ごはんを食べる事が習慣になった。そのせいか前より活動的になったような気もするし、苦手な方だった体育の成績も上がり気味だ。僕はフライパンを用意して、朝食を作る準備をする。外ではまだ蝉が鳴いていて、まだ夏が終わらない事を告げていた。遠くではパトカーのサイレンなんかが響いている。

 四日目、あの日無事に帰宅すると、僕らはアパートの扉の前で別れた。元気でね。なんて、隣に住んでいるのにそんな事をいう隣人にすこしだけおかしくなって僕は笑った。笑いだした僕に隣人は不機嫌そうな顔をしていたけれど、部屋に戻る直前には、あの不器用な笑顔を作っていた。あれからもう数日たっている。帰宅してすぐ、どうしてか家にいた両親にどこにいっていたのと問い詰められた。二人とも仕事を休んで、僕の帰りを待ってくれていたらしい。仕事人間の二人には申し訳ない事をした。素直に謝って、学校が少しだけ疲れたのだと伝えれば「無事でよかった」とだけ返された。その時の両親の泣きそうな顔はきっと忘れられない。
 仕事をきっちり辞められたのか、早朝忙しく階段を降りていく隣人の姿は見かけなくなった。きっと次の仕事を探しているのだろう。彼の事だから、もう見つかっているかもしれない。

「いただきます」
 トーストに、ベーコンと目玉焼きをのせた簡単な朝食を口にする。さくり、と噛みしめるよく焼いたトーストの香りは、朝の気持ちを心地いいものへと変えていく。夏の風がアパートを通り過ぎると、どこかの部屋に取り付けられているんだろう風鈴が数回鳴った。遠くに聞こえていたサイレンが、アパートの前で止まった。

タイトルとURLをコピーしました